2009年01月24日
「転職してええかなぁ」この言葉を聞くのは何度目だったでしょう
「転職したいんやけど」彼のこの言葉を聞くのは初めてではありません。数日前から私に話があるようなそぶりを見せていたので、なんとなく察しがついていました。
ぜんぜん違う仕事に転職するというわけではなく、いつも建設関係の会社の営業職にこだわっていました。
友人に話すと「またなの?」と呆れられます。「もう別れた方がいいよ」なんて無責任に言われたりするのも気分が悪く、私はだんだん誰にも彼の転職を打ち明けないようになっていました。
真面目な性格の夫は、今まで特に問題を起こしたことはありません。今度は順調に勤め続けてるなぁと安心していても、1年ほど経つと、やっぱり転職したいと言いはじめる。私はこりごりしていました。
転職のことを切り出されるたび、私は思わずカッとして彼にくってかかりました。「大人なら、少しぐらい嫌なことがあっても我慢して働きなさいよ。働くってそんなもんでしょうが!」彼はただしょんぼりと黙ってしまいます。
だけど、私は結局彼を許してきたのです。それは、彼の転職が、決して「逃げ」だと思わなかったから。彼が自分のやりたいことを必死で探し続け、葛藤しているのを知っていたからです。
「俺、現場をやりたいんや。職人になりたい」彼の言葉を聞いて、私は耳を疑いました。職人?でもなぜか、妙に納得してしまったのです。
考えてみれば、彼は職人に向いているのかもしれません。大工をしている彼の父親に似て、寡黙で誠実だし、力仕事も細かい作業もいとわないし、大きな手で器用に何でもこなしてしまう。彼は、職人にふさわしい気質を父親からしっかりと受け継いでいたのです。
私は答えました。「わかった。好きなようにしてみて。私、今回の転職には賛成」彼は驚いたように顔を上げ、嬉しそうにうなずきました。
翌月、彼が転職したのは、隣市にある小さな建設会社でした。晴れて職人として、施工管理担当者という肩書きで採用されたのです。
ここでは、今までの転職経験はすべてプラスに働きました。営業から施工までの流れが見えていること、多くの現場をみてきたこと、前職では営業をしながら現場の仕事も手伝っていたこと。仕事ぶりが真面目で覚えも早いと高い評価を受け、基本給は毎月少しずつアップしていったのです。1年後には主任になっていました。
彼は今、今まで見たことないくらい、明るい表情をしています。帰宅が早くなったし、日曜日はきちんと休みだし、晩ご飯を一緒に食べられるようになったのも、嬉しいこと。家族の時間が持てるようになりました。もう3年。つくづく、今回の転職は正解だったと思っています。