2009年08月06日
転職したい。夫の様子を観察していると察しがつきます
「転職してええかなぁ」夫からこの言葉を聞くのは、この時で何度目だったでしょう。数日前からそんな予感がしていた私は、「やっぱり来た」と思いました。
私たちが知り合った時、彼はすでに、数回の転職を経験していました。どれも建設関係の営業職ばかりでした。
「あの人、転職がクセになってるのとちがう?」家族や友人たちは私を心配しました。「別れたほうがいいよ」なんてアドバイスしてくれる人もいました。
彼は、ごく真面目な人間です。職場でもめたこともなければ、大きなミスをしたこともありません。でもなぜかいつも、転職して1年ほど経つと、「俺には合わない」と言い出すのです。
そのたびに、私は彼をなじりました。「どれだけ転職したら気が済むの?1年ぐらいで辞めないでよ。気に入らないことがあっても、みんな辞めないで働いてるよ。結婚してるんだからもっと責任もってよ、しっかりしてよ」
でも私が結局許してしまうのは、彼が転職に逃げているとは思えなかったから。彼はきっと、自分のやりたいこと、向いていることを必死で模索し続けていたのです。真面目な性格ゆえ、妥協ができないのでしょう。
彼は意外にも「職人になりたい」と言いました。営業ではなく職人になりたい──こんなの、今までなかったことです。私はやっと、彼が何かをみつけたのだと思いました。
考えてみれば、彼は職人に向いているのかもしれません。大工をしている彼の父親に似て、寡黙で誠実だし、力仕事も細かい作業もいとわないし、大きな手で器用に何でもこなしてしまう。彼は、職人にふさわしい気質を父親からしっかりと受け継いでいたのです。
「いいよ、転職してみたら。私、あなたは営業より職人の方が絶対向いてると思う」私の言葉に、彼はホッとしたように笑みを浮かべました。
彼が、ある建設会社に施工管理担当者として転職を果たしたのは、それから1ヶ月後のこと。めでたく、職人としての再スタートを切ったのです。
幸いにも、何度も面接をして転職を繰り返してきた経歴は、マイナスどころかプラスに働いたようです。いくつもの現場をみてきたこと、営業経験もあるので流れをトータルで把握できること、前職では営業をしながら現場の仕事も手伝って覚えたこと。彼の真面目な仕事ぶりも評価され、給料は毎月少しずつ上がっていきました。1年後、彼は主任になりました。
今、彼は晴れ晴れとした表情で現場に通っています。夫が遣り甲斐をもって働いているのは嬉しいものです。残業がなくなり、日曜はきっちり休みがあるので、家族の時間も増えました。今回の転職は正解だった、しかもこれが最後。私はそう確信しています。あれから、もう3年です。